「目覚めし五つの種族」

辿り路5 ~風送りの儀~

ユイナ

 ようやくたどり着いた最上階…扉の中は…。

「なんだか想像してたのと違う…」

「やたら可愛い?」

「儀式の衣装を厳重に保管している…にしては…ね」

 見回したそこは…厳格な儀式…からは程遠い様子…。そこに儀式を邪魔するためになのか…棲み付いていたモノはどうやら可愛らしいもの好き…。

 始めはさっそく襲い掛かるか…と言うような様子だったのだが…ふと視線を向けた先…フウラに何やらただならぬ視線を向ける。

 すごくかわいい…と気に入った様子に、

(フウラさんに危険が!? ハニーって!?)

 慌てたのもつかの間…ソレの狙いはフウラ…ではなく、彼女がずっと大切に抱いている人形の方…。

 そして…唐突に起こったやり取りに、ユイナ達は…現れた黄色いモンスターと…フウラをと交互に見比べる。

「あの子…案外に…腕力あるな」

 リョウが感心した声…。モンスターとの人形の取り合いに、一時とは言え勝ったフウラへの感想だ。

「ホントに…」

 うっかり感心して眺めてしまってから、

「そんな場合じゃないよぉ!」

 襲い掛かる寸前で間に飛び込む。戦闘は…ネネが魅了されたり…リョウが荷物からハリセンをさっと取り出したり…。

(ご…ご用意がよろしいですわ…リョウさん…)

 リョウが頼りになる冒険者であった事と、仲間にしていたホイミスライムが…同じく長く旅をしていて力強くなっていた事を見ている間に…終わる。

 怒りに燃えて、更に襲い掛かろうとしたところに、フウラが大事にしていた人形を渡してしまう事で…そちらで納得して夢中になったモンスターは去って行った…。

 そうして儀式に必要な手綱と衣装をと手に入れたフウラは、すっかり慣れた風にとカムシカと共に塔を去り、それを見送った後、ユイナ達もアズランへと帰る。

 町に戻れば、儀式の衣装に身を包んだフウラが、カムシカと共に町を渡る…。6年ぶりの風送りの儀式に、町の人達の表情は明るくなる様。

 そうして、気持ち新たに…風乗りを受け継ぐことを決めた彼女の宣言は、ここまでの迷いは払拭した様子でとても誇らしげだった。

 そうして…無事に儀式を終えたユイナ達は、塔での事などを報告するためにも領主の屋敷へと出向けば、屋敷前でフウラ達と出会う。

 カムシカ達を受け入れ、今後は風乗りの役目をついで生きて行くと決めたフウラは、学園で試験に向かう前の自信のなかった彼女と比べて、明るく前を向く様子。父であるタケトラも安心した様に見える。

 そうして…今回の風送りの儀式を無事に終える事が出来、それに手助けしたという事を功績として、ユイナ達には「緑のキーエンブレム」が与えられた。

「やったぁ~」

「やりましたぁ~」

 初めてのキーエンブレムを手にし、翳して見たり…喜び合う。幸先よい旅立ちに、

「次は始めにネネちゃんが目的としていた事ですし、ガタラの方へ行きますか?」

 次の計画を…と話を持ち掛ければ、二人にも異存なし…と言う事。

「故郷だしね! 案内するよ~」

 張り切って駅へと向かうネネに、

「あんまり急いで走ると転ぶよ」

 言いながらリョウが後に続くのに、

「そんな子供じゃないよ!」

 ネネが振り返り言い返し、笑いあいながらわいわいと駅へ向かう。

「さぁガタラへ向けてしゅっぱーつ!」

 ネネがさっそくと乗り込んだ箱舟…。リョウとユイナは一瞬顔を見合わせてから、その後を追って乗り込む。

 空いている席に座って、他愛ない話をしながら窓の外など見て居れば、賢者…を名乗る人物が声をかけて来る。

 話の大半は…手にしていた弁当を食べる事に夢中…な様だったが、彼はユイナ達が「一度死んだ生き返し」である事や、その体を借りて生きている本来のユイナ達が「エテーネの民」だという事を見破り、エテーネがこの世界のどこに位置していて、そのエテーネが存在して居るレンダーシアが封印されている状態である事も語る。

 そして…少し前世界に魔障が噴き出そうとして時に放たれた光が、勇者の覚醒の光である事、それが放たれたのもレンダーシアである事も話す。

 それらを語った賢者ホーローは、ユイナ達にレンダーシアを目指す様にと告げる…。彼が言うには、自分達が行くべき道を知るためにも、キーエンブレムをある程度の数集める必要があるのだ…とか。

 話す間の態度…はともかく、「賢者」と言われるような人の言う事だ…初めからキーエンブレムはこれから旅する目的の一つでもある…。優先的に手に入れられるようにと務めて行くのはやぶさかでもない。

 それだけに集中する…とは決めなかったが、各地を巡りながら手に入れるための情報など集めて行こう…ユイナ達は旅の方針にと「キーエンブレム取得」を主軸に置いての旅に決めた。

 そうして…箱舟は次の町へと到着した…そこに見えた景色は…。また新たな旅の始まりである。

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