辿り路3 ~相席と旅立ちの話~
行先や帰る方法について相談する事にした…とは言え、ユイナも他の大陸の事など詳しいわけではない。自分自身も旅をするのは初めてである…。
どうしたものか…と考えながら、酒場に入ると、時間的に他の客の姿は見えず、一つの席に座っていたのは、オーガ族の女性。見た感じ旅慣れた様子…と思える彼女に、
「あの方なら、どちら行きの箱舟に乗れば目的の町へ行けるか、ご存じかもしれませんね」
そう連れの少女にと言えば、
「そうね!」
快活で物怖じしない様子の彼女は、すぐに…と、その席へ駆け寄ってまずは元気に挨拶する。
話しかけられるとは思っていなかっただろう彼女は、少し驚いた風だったが、邪険にするでもなく挨拶を交わし、実は聞きたい事がある…と言えば聞いてくれるよう。同じ席にと相席させて貰う。
まずはお互いに自己紹介し、その間にやって来た店員には飲み物をと頼む。そうして、迷子だったドワーフの少女は「ネネ」と名乗り、オーガの女性は「リョウ」と名乗り、ユイナも二人に名乗って改めて挨拶を交わす。
そうしてお互い名乗り合った後改めて、ネネに何があって、こうして目的地でもない見知らぬ町まで来てしまったのか…の話を聞く事になる。
「え…それじゃあ…ゼミのスライムベスさんを…依頼対象のモンスターだと思い込んで追いかけていたのですか?」
モンスターの中には、魔物使いと言う職業に就いた冒険者のお供をしていたり、町中で人と同じように、店や施設で役割を持っているモノもいる。
見た目は同じなのだが、特徴的な衣装などを身に着けて区別はされていたりするものなのだが、どうやら勘違いでネネはそのスライムベスを追っていたらしい。
「では始めはどちらへ向かう予定だったのですか?」
箱舟を乗り間違えたのなら、本来の目的はどこ…とユイナが聞けば、
「あのね、ガラクタ城?」
元々目的としていた場所としてネネが上げた名称は、ユイナは知らない名前…だったが、リョウが聞いた後少し笑い、
「それは…箱舟に乗る必要がなかったんじゃないか?」
そう言う。ネネの出発地はガタラ…ガラクタ城と言うのはそのガタラの町の中にあるらしい…。
「乗る筈じゃなかったんだよぉ~」
ネネはそう首を振る。鉄道駅へと入ってしまったのも、やって来た箱舟に乗り込んでしまったのも…ただまっすぐにスライムベスを追っていての事で、乗込んでしまった事すらが「うっかり」だったらしい…。
思いつくままに突っ走ったネネの結果…に、ユイナ達も笑う。ネネ自身はここまでの行動や出来事を面白おかしい調子で語っていて、明るく楽しい人だ。
話す内に、ガタラでガラクタ城を目指していた理由が、ガタラの町のキーエンブレムを唯一持っている人の家だったから…キーエンブレムを手に入れる事と、今そこでは何か騒ぎが起こっていて、何が起こっているのかを聞こうとしての事…と知れる。
「では…うっかり目的から道をそれてしまったのですね…目的がキーエンブレムだったのなら、ここアズランでもご領主に認められれば与えられるという話を先ほどお聞したばかりです」
キーエンブレムを集めるという理由で各地を巡るのなら、せっかく来たのなら話を聞く相手を、アズランの領主にしてみては…と提案する。ユイナ自身も、元より屋敷へ向かう用の途中…良ければ一緒に行かないかと誘うのにも、ネネはうんうんと頷いて、さっそく…と立ち上がった所で、
「そう言えばリョウちゃんはもういくつか手に入れてたりする?」
ネネがそう、長く旅をする間に、どこかで依頼でも受けて認められたりしているのでは…と、興味津々にと向き直る。ところが…、
「いや…そう言うのには興味がなかったから…噂は聞いたりもしたけど…一度も町長や領主の所へは出向いた事はない」
そう首を振った。
「えぇ!?」
今までの旅の間に、キーエンブレムを持っていない者には箱舟では行けない町の話も出ていた…と言う事は、箱舟を使わずにひたすら自分の足で大陸中を渡り歩いていた…と言う事になる…。
「ならリョウちゃんも一緒に行こうよ~。パーティーで依頼をこなして認められたら、メンバーはみんなで受け取れるって聞いてるよ~」
話を聞いて、さっそくネネはリョウに同行を誘う。しばらくはそれでもどこか「面倒ごと」と首を突っ込まない主義…らしいリョウは渋っていたのだが、
「キーエンブレムを貰えるのは各町の代表者に力を認められたという証…力を求めるのなら力試しの一つ…では?」
ふとアズランで聞いた話を思い出して告げる。ネネも色々と『利点』など沢山伝えていたのもあり、
「なるほど…力が付いたと他者からも認められた証…」
少し考え始め、最後には、
「二人がそう言うなら…一緒に行こうかな」
ネネの誘いにリョウもそう頷いていた。そうして…偶然に巡り合った三人は、目的を同じくして…残っていたグラスの中身を飲み干すと、酒場を後にした。
